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  • 診療テクニック
  • 公開:2023/01/06
  • 更新:2023/01/06

【歯科医師監修】浸潤麻酔の成功は、患者の信頼を得る第一歩

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電動麻酔器を使った浸潤麻酔の手順とポイント



生活歯や歯周組織への処置、口腔外科手術に欠かせない「浸潤麻酔」。


実は、これが最初にして最大の関門ともいえます。

今回は、神奈川県海老名市にあるベル歯科医院の鈴木彰院長に解説していただきました。



 

浸潤麻酔が上手く出来れば、その後の診療もスムーズに進み、患者さんの信頼を得ることが出来ます

逆に、うまく出来なかったら…

患者さんは痛みに敏感で、診察台の上では痛くないか、全身をセンサーにして探っています。

痛みや不快感があると、「この先生、大丈夫?」と不信感が高まり、その後の治療がスムーズにいかなくなる恐れも。

「私自身の経験もそうですが、研修医たちも浸潤麻酔が上手くなると自信も付き、患者さんへの説明や声掛けも堂々とし、その他の技術もメキメキと上達し始めます。
やはり、浸潤麻酔のマスターが力を付ける一歩目と言えますね」
と、鈴木院長は話します。

浸潤麻酔の重要性、なんとなく分かっていただけたでしょうか?



 

ところで、質問です。

1.浸潤麻酔、あなたは一日何回打っていますか?
 ― ●回

2.あなたは浸潤麻酔の技術に自信がありますか?
 ― Yes or No

3.あなたは浸潤麻酔の技術に自信を付けたいですか?
 ― Yes or No

3つ目の質問にYesと答えた方、この先もお付き合いくださいね。
Noとお答えの方は、またいつかお会いしましょう(笑)



 

さて、浸潤麻酔で困ったケースとして、
1.麻酔が効くときもあるし、効かないときもある
2.麻酔自体が痛いと言われる
3.薬液が届いていない
4.刺入点から漏れる
5.薬液量の不足
6.薬剤との相性が悪い

7.炎症部位への刺入
などが挙げられます。



 

これらを避けるためには、
①電動麻酔器を使うこと
②3つの刺入点を使い分けて麻酔をすること


この2つを行うことによって、ほとんどのケースの麻酔を効かせることが出来ます。




 

電動麻酔器を使った治療方法

患者さんの不快感を軽減させるため、急速に広まりつつある「電動麻酔器」。

この電動麻酔器を使った治療の方法を紹介します。



《麻酔時に準備する物》
まず、用意するものは以下の3つ。





1.電動麻酔器
 ⇒例:日本歯科薬品製 アネジェクトⅡ



2.麻酔針
 ⇒30G(ゲージ)・ショート



3.麻酔薬
 ⇒2%リドカイン8万分の1 アドレナリン含有 歯科用キシロカインカートリッジ
  または、
  3%プロピトカイン0.03U/ml フェリプレシン含有 歯科用シタネスト‐オクタプレシンカートリッジ




 

《麻酔使用時の手順》
①針を曲げる
②電動麻酔器を握る
③固定をとる(口唇の圧排)
④直視する
⑤第1刺入点に刺入する(粘膜麻酔)
⑥浸透させる(揉む、広げる)
⑦第2刺入点に刺入する(傍骨膜麻酔)
⑧第3刺入点に刺入する(歯根膜麻酔)



具体的に解説していきますね。


 

①針を曲げる
直線状の針は、そのまま使用すると手の固定点が取りにくいため危険です。



あらかじめ、刺入と固定がしやすい角度に曲げておきましょう。
ただし、針の先端は滅菌状態を保つことと、針刺し事故防止のため針の根本が中央部までしか触れないように注意します。



②電動麻酔器を握る
握って確実に固定します。
握るタイプの電動麻酔器は重心の位置で握るため軽く持つことができ、刺入時の感触を手で感じることができます。





③固定を取る(口唇の圧排)
患者さんの頭がヘッドレストに確実に固定できているか確認します。
左手は頬骨や下顎骨を固定し左指で口唇を圧排、さらに、左手指先は歯槽粘膜に触れて粘膜を圧迫します。





④直視する
固定をとった状態で刺入点は直視出来ているはず。
左手指先で圧迫した貧血帯は、刺入の感覚を一時的に麻痺させることが出来ます。



⑤第1刺入点に刺入する(粘膜麻酔)
第1刺入点は、歯肉頬移行部よりも5mm前後離れた頬粘膜。
歯槽骨にあてる必要はありません。
LOWモードでゆっくりと注入し、粘膜の盛り上がりを観察します。
多くの場合、アドレナリンにより粘膜が白くなりますが、これは麻酔薬が滞留している目安になります。





⑥浸透させる(揉む、広げる)
第1刺入点での注入が終わったら、一度機械を安全な場所に置き、盛り上がった粘膜を指でよく揉み、麻酔薬を周囲の組織へよく浸透させます。





⑦第2刺入点に刺入する(傍骨膜麻酔)
第2刺入点は、頬側歯肉縁を結ぶラインと歯の接触点を通る矢状面の交点となる歯槽粘膜。
刺入点より数ミリ根尖側にある歯槽骨頂に向けて、やや下向きに刺入します。
針の開口方向に注意しましょう。
※第2刺入点以降は、ポケットやほかの刺入点から薬液が漏れることがあるので、喉や舌に麻酔薬が触れないように吸引します。





⑧第3刺入点に刺入する(歯根膜麻酔)
第3刺入点は、コンタクト直下の歯根膜を狙います。
針の向きをしならせて湾曲を強めに調整し、歯根に沿って歯周ポケットに刺入します。
歯根粘膜に入ると抵抗があるので、針の中央部を指でガイドして針を進めます。
刺入順序は、近心→遠心→その他、で行います。





少しでもイメージ出来ましたでしょうか?




 

電動麻酔器を使用する際のポイント

ポイント1:針先の切れ味が落ちていないか確認を!

当然ではありますが、麻酔針の切れ味が最も良いのは開封後の1回目の刺入時です。
しかし、硬組織(骨)に挿入接触すると、針先は曲がり切れ味も落ちてしまいます。
そのため、2回目以降の刺入時は刺入時の抵抗が増し、歯肉組織の損傷が増加することも。
必要に応じて針先の交換を行ってください。
特に多数歯、広範囲に麻酔をかける場合は、しっかり確認を!





ポイント2:指で圧排して直視しよう

指による口唇や頬の圧排は口角の痛みを感じにくいですが、ミラーなど金属の細くて硬いもので力を加えられると痛みを感じやすく、不快です。
また、ミラーでは横に引っ張る動作しか出来ませんが、指では押す、上下に広げるといった動作が可能で、視野の確保がしやすいのです。



どちらもちょっとしたポイントですが、グッと処置がしやすくなり患者さんの苦痛も和らぎますので、要チェックです!




 

電動麻酔器の利点

メリット1:スピード調整が可能

低速&一定速度で麻酔薬を注入出来るので、注入時の痛みはありません。
表面麻酔も必要ありません。



メリット2:麻酔薬の苦みが減少

軟組織からの麻酔薬の漏れが少ないので、麻酔薬液が少なくて済み、漏れによる薬品の苦みも減少します。



メリット3:確実な作業が可能

浸潤麻酔だけでなく、歯根膜麻酔も確実に実施出来ます。

実は、従来の手動の麻酔器で処置する場合、その大半が漏れてしまいます。
そのため、麻酔薬の注入量が多くなり、周囲に広がりすぎて口唇のしびれが出る、麻酔が切れるまで長い時間が掛かるなどの症状が出やすいのが現状です。

また、手動麻酔器では正確な固定が難しいため、手がぶれることで針先が上下し、刺入点が緩くなり、そこから薬液が逆流し苦みを感じさせてしまうことがあります。

手動麻酔器では固くて刺入できない歯根膜も、電動麻酔器ではトルクもあり、当該歯の歯根膜の部分に30Gで入れることも出来ます。

このように、手動麻酔器のデメリットを電動麻酔器は解消しているため、今回は電動麻酔器を推奨しています。

持っていない、という方も、一度手に取ってみてはいかがでしょうか?

【他の麻酔に関する記事はコチラから!】
「【歯科医師監修】歯科用局所麻酔薬の使い分けとは?」
「【歯科医師監修】浸潤麻酔の効果が不十分で、冷や汗をかきながら治療したことはありませんか!?」



 

ここまで浸潤麻酔についてお話してきましたが、上手く出来るイメージが沸いてきましたか?

覚えることだらけだと思いますが、腕の良い歯科医師になる近道は、長く最前線で活躍している歯科医師の技を知ることだと思います。

自己流で試行錯誤するのは、時間も労力ももったいないですからね。



『生活歯を残せる時代の5つのスキル』
鈴木彰著 クインテッセンス出版株式会社

この本では、歯科医師として33年活躍している著者が疾患の掌握から主訴対応、治療、ポジショニングまで、写真や図解付きで分かりやすく解説しています。

現場で立ち往生してしまった方、今さら先輩に質問できない、などお悩みの方は、ぜひ手に取ってみてください。

教科書には載っていない、現場に即した「虎の巻」です!

皆様の歯科医師人生のお役に立てることを祈っています(*^_^*)




 

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