歯科医師の第一関門である、「局所麻酔」。
JDCnavi事務局でも多くの質問を受けております。
そこで、今回は局所麻酔薬で皆さんからよく受けている質問を日本歯科麻酔学会専門医の先生に聞きました!
①歯科用局所麻酔薬にはどのような製品がありますか?
現在日本で使用されている主な歯科用局所麻酔薬は4製品です。
使用頻度順に、キシロカイン、オーラ注、シタネスト、スキャンドネストです。
局所麻酔薬の有効成分には「麻酔薬」と「血管収縮薬」という2種類の薬が入っているのですが、その2つの配合によって4種類の製品を区別することができます。
最もポピュラーに使われている「キシロカイン」は、塩酸リドカインという麻酔薬に血管収縮薬のアドレナリンが混ぜてあります。
キシロカインの剤形が変わったものに「オーラ注」というものもあります。
一方、塩酸プリロカインという麻酔薬もあります。
この中にフェリプレシンという血管収縮薬を入れたものが「シタネストオクタプレシン(以下:シタネスト)」という製品です。
最後に、麻酔薬にメピバカイン塩酸塩が入っているのが、「スキャンドネスト」という製品です。
この麻酔薬には血管収縮薬が入っていません。
いわゆるピュアな局所麻酔薬ですね。
以上が主な歯科用局所麻酔薬です。
有効成分 |
|
|
|
麻酔薬 |
血管収縮薬 |
分量 |
製品名 |
塩酸リドカイン |
アドレナリン |
1.8ml |
キシロカイン |
塩酸リドカイン |
アドレナリン |
1.0ml |
オーラ注 |
塩酸プリロカイン |
フェリプレシン |
1.8ml |
シタネスト |
メピバカイン塩酸塩 |
なし |
1.8ml |
スキャンドネスト |
②それぞれの違いを教えてください。
・キシロカインとオーラ注の違いは分量とアドレナリンの濃度
1)分量の違い
キシロカインは1.8ml、オーラ注は1.0mlと分量が違います。
麻酔薬を打つ時に、カートリッジ1.8mlの半分ぐらいを使って、残りは捨てるということがよくあります。
残った麻酔薬を次の患者さんに使うわけにもいかないですからね。
ただ、極力1回で麻酔薬を使い切りたいという気持ちもありますので、このような理由から、特に小児の場合で1.0mlのオーラ注を使用するケースがあります。
2)アドレナリンの濃度の違い
もう一つ、キシロカインとオーラ注では血管収縮薬のアドレナリンの濃度が違います。
オーラ注の方がアドレナリンの濃度が濃いです。
そのため、どうしても出血を確実に止めたい場合には、オーラ注を積極的に使用することが多いです。
製品名 |
分量 |
アドレナリン濃度 |
用途 |
キシロカイン |
1.8ml |
1/80,000 |
一般 |
オーラ注 |
1.0ml |
1/73,000 |
小児など少量で済む |
・キシロカイン、オーラ注とシタネスト、スキャンドネストの違いはアドレナリンの有無
キシロカイン、オーラ注とシタネスト、スキャンドネストの違いは、アドレナリンの有無です。
簡潔にキシロカイン、オーラ注とシタネスト、スキャンドネストの使い分けを言うならば、アドレナリンを使用できない患者さん(動悸がしては困る人、血圧が上がっては困る人)には、シタネストやスキャンドネストを使用します。
ちなみに、シタネストの利点について以前大学の先生に聞いてみました。
症例の中には、アドレナリンで不整脈が出やすくなるケースがあるそうです。
そのため、不整脈が出ると困る患者さんには、不整脈を増強する作用がないフェリプレシンが入っているシタネストを使用していたことがあったそうです。
今は、シタネストの代わりにスキャンドネストを使用するケースが増えているそうですが。
製品名 |
用途 |
キシロカイン、オーラ注 |
アドレナリンを投与しても問題ないケース |
シタネスト、スキャンドネスト |
動悸や血圧の上昇が禁忌なケース |
・防腐剤が含まれないのはスキャンドネスト
スキャンドネストと他3製品との違いは、血管収縮薬と防腐剤の有無です。
冒頭で局所麻酔薬には麻酔薬と血管収縮薬が入っていると説明しました。
キシロカイン、オーラ注、シタネストにはこの2種類の薬が入っていますが、スキャンドネストには血管収縮薬が入っていません。
そのため、血圧を上げたり、心拍数を上げて動悸を引き起こしたりする陽性変力作用はありません。
これにより、シタネスト同様に既往症がある方に使用することができます。
また、他に違う点として挙げられるのが、局所麻酔薬には先に述べた2種類の薬の他に、メチルパラベンという防腐剤が入っています。
このメチルパラベンはアナフィラキシーを発生の原因とされることが多い問題があります。
アレルギー体質の方にはメチルパラベンを避け、スキャンドネストを選択することもあります。
これは、局所麻酔薬のカートリッジを長く保存するためです。
しかし、スキャンドネストにはこの防腐剤が入っていません。
そのため、アレルギーの問題がある方にも使用することができます。
製品名 |
血管収縮薬の有無 |
防腐剤の有無 |
キシロカイン |
〇 |
〇 |
オーラ注 |
〇 |
〇 |
シタネスト |
〇 |
〇 |
スキャンドネスト |
× |
× |
・スキャンドネストとシタネストの違いは効き始めの時間
スキャンドネストとシタネストの違いは、麻酔薬の効き始めの時間です。
血管収縮薬には組織移行を阻害する、麻酔薬の量を減らす、組織に留まって長時間効かせるという効果があります。
しかし、スキャンドネストには血管収縮薬が入っていないので、麻酔薬がパーッと組織に散ってあっという間に効かなくなってしまいます。
そこで、メピバカインという物質を入れることによって、長時間作用するようにしたわけです。
ただ、長時間作用するということは、効き始めがやや遅いということです。
シタネストには血管収縮薬が入っているので、スキャンドネストと比較すると、効き始めがやや早いということになります。
製品名 |
効き始め時間 |
持続時間 |
シタネスト |
スキャンドネストと比較 |
やや短い |
スキャンドネスト |
シタネストと比較すると、 |
血管収縮薬が入っていない |
今回は、主な歯科用局所麻酔薬の種類とそれぞれの違いを説明しました。
次回以降は、
・麻酔における研修医の第一関門とは
・医療事故が起きやすいのはどのような時か
をご説明します。
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