【基礎知識】歯科学生なら知っておくべき「歯科医師臨床研修」完全ガイド/制度の仕組みから研修先選びまで
2006年4月にスタートした「歯科医師臨床研修」。
歯科医師を目指す皆さんにとって、国家試験合格後に必ず通る道ですが、実は制度の詳細や施設の分類、プログラムの選び方、さらにはマッチングの攻略法まで、知っておくべきポイントがたくさんあります。
本記事では、臨床研修制度の基本から最新情報、そして成功する研修先選びの秘訣まで、これから研修先を選ぶ皆さんに役立つ情報を徹底的に解説していきます。
第1章:義務化された「歯科医師臨床研修」の全体像
・臨床研修制度とは何か
診療に従事する歯科医師になるには、歯科大学・歯学部での6年間の教育と歯科医師国家試験合格に加えて、研修施設の指定を受けた病院・診療所などで1年以上の臨床研修が義務づけられています。この制度は、歯科医師としての基本的な診療能力を身につけ、患者さんに安全で質の高い医療を提供できる歯科医師を育成することを目的としています。
・研修期間の詳細
研修期間は最低1年ですが、各研修施設によっては1年以上のプログラムを用意しているところもあります。病気などやむを得ない事情で中断した場合でも、合算して1年以上あれば修了が認められますので安心してください。
また、複数の施設で研修を行う「複合型プログラム」の場合、各施設での研修期間は原則として連続した3ヶ月以上と定められています。これは、短期間の研修では十分な学びが得られないという考えに基づいています。
・臨床研修を受けなくても良いケースとは
診療に従事しない場合(大学で基礎研究を続ける場合、行政職に就く場合など)は、臨床研修を受けなくても構いません。ただし、将来の選択肢を広げるためにも、卒業後すぐに受けておくことを強くお勧めします。
後から臨床研修を受けようとすると、既に他の仕事に就いている状態から1年間を確保する必要があり、スケジュール的にも精神的にもかなり大変です。また、年齢を重ねてから研修医として学ぶことに抵抗を感じる方も少なくありません。
・制度改正の歴史
歯科医師臨床研修制度は、令和3年4月1日から一部改正されています。この改正により、研修内容の質の向上や、より柔軟な研修体制が図られています。制度は時代とともに進化していますので、最新情報は常に厚生労働省のホームページでチェックするようにしましょう。
参考記事:
なぜこのような制度になったのか、興味のある方は以下もチェックしてみてください。
JDCnavi→「歯科医師臨床研修制度が出来たワケ」
→https://www.jdc-navi.com/blog/details.jsp?id=141
第2章:臨床研修施設の分類と特徴を完全理解
令和7年度(2025年度)の施設数と最新動向
厚生労働省が公開している最新の「単独型・管理型臨床研修施設一覧」によると、全国で研修を実施している施設は多数存在します。令和3年の制度改正以降も、質の高い研修機会が多様に提供されています。
研修施設の大きな2つの分類
臨床研修施設は、大きく以下の2つに分類されます。
1. 大学病院
・歯科大学附属病院
・ 医科大学附属病院(歯科を有するもの)
大学病院での研修は、多様な症例に触れられること、最新の医療設備が整っていること、専門医による高度な指導が受けられることが特徴です。また、学術的な雰囲気の中で研修できるため、将来大学院進学や専門医取得を考えている方には特におすすめです。
2. 厚生労働省指定の病院もしくは診療所
・医科病院・歯科病院
・歯科診療所(一定の基準を満たした開業医の診療所)
開業医での研修は、地域歯科医療の実際を学べること、一般的な歯科治療の経験を積めること、将来の開業に向けた実践的なスキルが身につくことが特徴です。患者さんとのコミュニケーション能力も自然と磨かれます。
第3章:5つの臨床研修施設タイプを徹底解説
研修施設は、その役割や機能によって以下のように細かく分類されています。
この分類を理解することで、自分がどのようなプログラムを選ぶべきかが見えてきます。
1. 単独型臨床研修施設
その施設だけで、あるいは研修協力施設と共同して臨床研修を完結できる施設です。1つの施設で全ての研修が受けられるため、環境に慣れやすく、指導体制も一貫しているというメリットがあります。
メリット
・環境の変化がないため、ストレスが少ない
・指導医との信頼関係を築きやすい
・通勤先が変わらない
デメリット
・多様な診療スタイルを学ぶ機会が限られる
・人間関係が固定化されやすい
2. 管理型臨床研修施設
他の施設や研修協力施設と共同して臨床研修を行う際に、その研修全体を統括・管理する中心的な施設のことです。
研修プログラムの企画・運営、研修医の評価など、研修全体の責任を持ちます。
重要ポイント
原則として、1年間の研修のうち3ヶ月以上は管理型施設で研修することになります。管理型施設は通常、大学病院や大規模病院が担当するため、基礎的な部分をしっかり学べる環境が整っています。
3. 協力型臨床研修施設
管理型臨床研修施設と組んで臨床研修を行う施設です。多くの場合、開業医の診療所がこれに該当します。地域に根ざした一般歯科診療を学ぶ絶好の機会となります。
重要ポイント
原則として、1年間の研修のうち、各協力型施設において連続した3ヶ月以上を研修することになります。この期間で、保険診療の実際、患者さんとの信頼関係の築き方、効率的な診療の進め方など、実践的なスキルを学べます。
協力型施設での研修の魅力
・一般的な歯科治療の流れを体系的に学べる
・開業医の経営感覚に触れられる
・地域密着型の医療を経験できる
・将来の開業に向けた人脈作りのチャンス
4. 研修協力施設
臨床研修施設と共同して研修を行う施設で、老人介護施設や保健福祉センターなどもここに含まれます。高齢者歯科や地域保健活動を実地で学べる重要な場です。
超高齢社会を迎えた日本において、訪問歯科診療や介護施設での口腔ケアの重要性は年々高まっています。研修協力施設での経験は、将来どのようなキャリアを選ぶとしても必ず役立つでしょう。
5. 臨床研修施設群
共同して臨床研修を行う管理型臨床研修施設および協力型臨床研修施設のグループを指します。複数の施設を組み合わせたプログラムでは、この施設群全体で研修が行われることになります。
施設群を構成することで、各施設の強みを活かした総合的な研修が可能になります。
例えば、大学病院で口腔外科を、開業医で一般歯科を、介護施設で訪問診療をといった具合に、バランスの取れた経験を積むことができます。
第4章:マッチングシステムの仕組みと攻略法
マッチングシステムとは
歯科医師臨床研修では、歯科医師臨床研修マッチング協議会が運営するマッチングシステムを利用します。これは、研修希望者の希望順位と施設側の希望をコンピュータがマッチングさせる仕組みです。
このシステムには「耐戦略性」という特徴があります。つまり、自分の本当の希望通りに順位をつけることが、最も良い結果につながるということです。「人気施設は倍率が高そうだから避けよう」といった戦略を立てる必要はありません。正直に希望順位を登録してください。
マッチングのスケジュール(参考)
一般的なマッチングのスケジュールは以下の通りです:
1. 6月中旬〜7月下旬: マッチング参加登録期間
2. 6月〜9月: 施設見学・面接
3. 9月下旬: 希望順位登録締切
4. 10月中旬: 中間公表(第一希望者数の発表)
5. 10月下旬: マッチング結果発表
6. 翌年4月: 研修開始
マッチング成功の2つのポイント
ポイント1:複数の施設を見学する
最低でも3〜5施設は見学することをおすすめします。見学せずに決めるのは絶対に避けましょう。パンフレットやウェブサイトだけでは分からない、リアルな雰囲気や指導体制を知ることができます。
ポイント2:希望順位は多めに登録する
第一希望が定員オーバーだった場合に備えて、第3希望くらいまでは登録しておくと安心です。
アンマッチになった場合の対処法
万が一マッチングが成立しなかった場合でも、2次募集や自由応募で研修先を見つけることができます。2次募集の多くは先着順で、すぐに枠が埋まってしまうため、結果発表後は迅速に行動することが重要です。
JDCnavi:【歯科医師臨床研修マッチングプログラム】アンマッチングになった時の打開策
→https://www.jdc-navi.com/blog/details.jsp?id=81
JDCnavi: 【国試合格後アンマッチ】歯科医師臨床研修先が決まらない時の対処法/現役院長が教える二次募集の勝ち方→https://www.jdc-navi.com/blog/details.jsp?id=21
第5章:プログラム選びの極意
プログラムの多様性を理解する
研修プログラムを1つだけ用意している施設もあれば、複数のプログラムを用意している施設もあります。同じ施設でも、プログラムによって全く異なる経験ができることを理解しましょう。
例:A大学病院の場合
・Aプログラム(単独型研修): 大学病院のみで1年間研修。
口腔外科や矯正歯科など、専門性の高い分野を重点的に学べる
・Bプログラム(一般複合型研修): 大学病院6ヶ月+開業医6ヶ月。
病院歯科と一般歯科のバランスが取れた研修
・Cプログラム(病院歯科口腔外科複合型研修): 大学病院6ヶ月+総合病院歯科口腔外科6ヶ月。
病院歯科に特化したプログラム
自分の目指す歯科医師像に合わせた選び方
→将来のキャリアプランに合わせてプログラムを選ぶことが、充実した研修生活の鍵となります。
開業を目指す方
おすすめ: 協力型施設での研修が長いプログラム
・一般的な保険診療を幅広く経験できる
・患者さんとのコミュニケーション能力が磨かれる
・診療所経営の実際を間近で学べる
・ 地域医療の現場を体感できる
病院歯科を目指す方
おすすめ: 大学病院中心、または総合病院連携のプログラム
・口腔外科手術の経験を積める
・入院患者さんの口腔管理を学べる
・医科との連携医療を経験できる
・専門医取得への道筋が見える
地域歯科医療に興味がある方
おすすめ: 訪問歯科や保健所実習が充実したプログラム
・高齢者歯科医療の実際を学べる
・多職種連携の重要性を理解できる
・地域保健活動に携われる
・在宅医療の現場を経験できる
第6章:施設見学で見るべきポイント完全ガイド
見学の重要性
必ず事前に見学に行きましょう! パンフレットやウェブサイトだけでは分からない、施設の雰囲気、指導医の人柄、研修医の働き方などを実際に自分の目で確認することが大切です。
見学時間の目安
見学時間は、半日から一日程度が理想的です。30分や1時間など短い時間だと、院長とスタッフの関係性や先輩の人柄、施設の雰囲気などがよく分かりません。可能であれば、朝礼から診療終了後の片付けまで、一日の流れを全て見せてもらうことをおすすめします。
見学時にチェックすべき10のポイント
1. 指導体制
・指導医の人数と経験年数
・研修医一人あたりの症例数
・指導医の教育に対する熱意
・フィードバックの頻度と方法
・指導カリキュラムの有無とその内容、過去の臨床研修実績(人数・出身大学など)
2. 研修医の様子
・研修医の表情(楽しそうか、疲れ切っていないか)
・研修医同士の関係性
・指導医との距離感
・実際に診療に携わっているか
3. 施設の設備
診療ユニットの数と状態
デジタル機器の導入状況
滅菌・消毒設備
研修医用の設備(ロッカー、休憩室など)
4. 症例の多様性
・どのような患者層が多いか
・保険診療と自費診療の割合
・専門的な治療の有無
・救急対応の頻度
5. 人間関係と雰囲気
・スタッフ同士のコミュニケーション
・「ありがとう」「お疲れ様」などの声かけ
・昼休憩時の雰囲気
・患者さんへの接し方
6. 労働環境
・実際の勤務時間(残業の有無)
・ 当直やオンコールの有無
・休日の取りやすさ
・有給休暇の消化率
7. 研修内容の具体性
・ 到達目標の明確さ
・ 症例検討会の頻度
・ 学会発表の機会
・他施設との交流
8. 給与と待遇
研修医の給与は施設によって大きく異なり、一般的には月収10万円〜20万円程度ですが、中には月25万円を支給する施設もあります。待遇に差があることは確かです。
給与だけで判断すべきではありませんが、生活に直結する重要な要素です。社会保険の有無、通勤手当、住居手当なども確認しましょう。
9. 通勤のしやすさ
・ 自宅からの所要時間
・公共交通機関のアクセス
・駐車場の有無(車通勤の場合)
・ 周辺の生活環境
10. キャリアサポート
・研修修了後の進路
・専門医取得のサポート
・ 大学院進学の可否
・継続雇用の可能性
見学時に聞くべき質問例
指導体制について:
・「研修医一人につき、どのくらいの頻度でフィードバックをいただけますか?」
・「症例検討会はどのくらいの頻度で開催されていますか?」
実際の業務について:
・「研修医が担当できる処置の範囲を教えていただけますか?」
・「一日あたりの平均的な患者数はどのくらいですか?」
労働環境について:
・「診療後の片付けや準備はどのように分担されていますか?」
・「研修医の皆さんは大体何時頃に帰宅されていますか?」
研修内容について:
・「特に力を入れている分野や特徴的な研修内容はありますか?」
・「学会発表や論文執筆の機会はありますか?」
見学時の服装とマナー
見学時はスーツまたはオフィスカジュアルが基本です。清潔感があり、真面目さが感じられる服装を心がけましょう。
また、見学中は以下のマナーに気をつけてください:
・ 診療の妨げにならないよう配慮する
・ 患者さんの前でも笑顔を忘れない
・ 質問はタイミングを見計らって
・ メモを取る姿勢を見せる
・ 感謝の気持ちを忘れない
見学後のお礼
見学後は、その日のうちにお礼のメールを送ることをおすすめします。簡単で構いませんので、見学の機会をいただいたことへの感謝と、印象に残ったことを伝えましょう。
第7章:充実した研修生活を送るために
研修中の心構え
臨床研修はあくまで「学びの期間」であり、治療技術や患者対応の基礎を身につけることが目的です。また、歯科医師法により、研修歯科医は臨床研修に専念する義務が課されているため、研修期間中のアルバイトは禁止されています。
給与面での不安から副業を考える方もいるかもしれませんが、この1年間は歯科医師としての基礎を築く最も重要な時期です。目先の収入よりも、質の高い研修を受けることに集中しましょう。
研修修了後のキャリア
研修修了後の2年目以降は実力が伴えば給与が大幅に増えることもあります。研修中は稼ぐよりも学ぶことに重点ををおき、将来の飛躍を見据えた姿勢で臨むことが大切です。
(厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査より→https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&stat_infid=000040247867)
まとめ:成功する研修先選びの5つの秘訣
最後に、充実した研修生活を送るための5つの秘訣をまとめます。
1. 早めの情報収集を始める
6年生になってからではなく、5年生のうちから情報を集め始めましょう。余裕を持って研修先を選ぶことができます。
2. 複数の施設を必ず見学する
最低でも3〜5施設は見学し、比較検討することをおすすめします。見学せずに決めるのは絶対に避けてください。
3. 自分の将来像を明確にする
「どんな歯科医師になりたいか」を明確にすることで、自分に合ったプログラムが見えてきます。
4. 先輩の生の声を聞く
実際に研修を受けている先輩や修了した先輩の話は何よりも参考になります。積極的に連絡を取ってみましょう。
5. 給与だけで判断しない
給与も大切ですが、それ以上に「何を学べるか」「どんな歯科医師に成長できるか」を重視してください。この1年間の経験が、その後のキャリアを大きく左右します。
これから研修先を選ぶ皆さんが、自分に最適な研修施設・プログラムに出会い、充実した研修生活を送れることを心から応援しています。
この記事が、皆さんの研修先選びの一助となれば幸いです。
参考リンク:
・厚生労働省:歯科医師臨床研修制度
・ 歯科医師臨床研修マッチング協議会
・JDCnavi




