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  • 公開:2025/12/21
  • 更新:2025/12/21

現役矯正歯科医2名に聞く「私が矯正医になった理由」〜若手×ベテラン、それぞれの視点で多角的に知る〜

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歯学部生・研修医の皆さん、将来の専門分野は決まっていますか?
一般歯科、口腔外科、補綴科、小児歯科、歯周病科、そして矯正歯科...様々な選択肢がある中で、
「矯正歯科医」という道を選ぶということは、どのような意味を持つのでしょうか。

今回インタビューした2名の先生
〇若杉先生(2009年卒・日本矯正歯科学会認定医)
海老名市「ベル歯科医院」で矯正歯科医として活躍中。一般歯科医院内で矯正を担当する勤務医スタイル。
〇青山先生(1986年卒・日本矯正歯科学会臨床指導医)
1992年から2019年まで「あおやま矯正歯科医院」を開設・運営。矯正専門医院を27年間経営したベテラン。

この、若手とベテラン、勤務医と開業医。
異なる立場から見える矯正医のリアルな姿を、対比形式でお届けします。これにより、矯正医というキャリアの多様性と本質が見えてきます。

矯正医を目指したきっかけ【対比ポイント①】

若杉先生の場合「明確な出会いが決め手」

Q. なぜ「矯正歯科」を選ばれたのですか?

研修医時代に「ベル歯科医院」で一緒に働いていた矯正医の佐々木先生の治療技術と人間性が本当に素晴らしかったんです。矯正治療が終わった患者さんの笑顔は、虫歯治療や歯周病治療とはまた違う、特別な輝きを持っていました。
「人の笑顔をこんなにも変えられる治療があるんだ」
その瞬間、私も矯正医としてこの道を進みたいと強く思いました。

研修医時代の気づき
若杉先生にとっての決定打は、尊敬できるメンターとの出会いでした。
研修医時代に間近で見た先輩矯正医の姿勢と、患者さんの変化。これが明確な動機となったのです。

多くの歯科医師が矯正医を目指すきっかけとして語るのが、「患者さんの人生が変わる瞬間」です。
若杉先生の場合も、まさにその典型的なパターンでした。

青山先生の場合「なんとなくという自然な興味」

Q. なぜ「矯正歯科」を選ばれたのですか?

正直にお話しすると、「なんとなく面白そうだったから」なんです。
これを聞いて意外に思われるかもしれませんね。でも、これが本当の理由です。学生時代や研修医時代に矯正科の臨床を見ていて、「面白そうだな」と感じたんです。特別な劇的なエピソードがあったわけではなく、自然な興味から矯正の道に入りました。

「なんとなく」という選択の意味
青山先生の「なんとなく面白そうだったから」という言葉は、実は非常に興味深い意味を含んでいます。
専門分野を選ぶとき、必ずしも劇的な出会いや強烈な動機が必要なわけではありません。むしろ、「自然に惹かれる」「なんとなく興味を持つ」という感覚こそが、長く続けられる分野を見極める上で大切なシグナルなのかもしれません。

この対比が教えてくれること

この対比が示すのは、矯正医を目指すきっかけに「正解」はないということです。

パターンA:明確な動機と憧れの存在(若杉先生型)
・尊敬できるメンターとの出会い
・患者さんの劇的な変化を目の当たりにする
・「この先生のようになりたい」という明確な目標

パターンB:自然な興味と好奇心(青山先生型)
・「なんとなく面白そう」という素直な感覚
・特定の出来事ではなく、徐々に惹かれていく
・無理のない自然な選択

どちらのパターンでも、矯正医として充実したキャリアを築くことができます。
大切なのは、最初のきっかけがどうであれ、その後どれだけ真摯に向き合い、学び続けるかという点です。

矯正医になるまでの道のり

二人に共通する「長期研修」の現実

若杉先生の研修過程:
・研修医:「ベル歯科医院」と「東京医科歯科大学」で半年間
・矯正の本格研修:東京医科歯科大学で6年間
・日本矯正歯科学会認定医取得

青山先生の研修過程:
・1986年:東京医科歯科大学歯学部卒業
・同大学歯科矯正第二講座に入局、6年間研修
・1991年:日本矯正歯科学会認定医取得
・1992年:大学退局、矯正専門医院開業
・ 2007年:臨床指導医(旧専門医)取得

二人に共通しているのは、6年間という長期研修期間です。
これは他の歯科専門分野と比べても、矯正歯科が特に長期の研鑽を必要とする分野であることを示しています。

認定医取得の厳しい条件を知る

日本矯正歯科学会の認定医資格取得には、以下の条件をすべて満たす必要があります:
1. 学会指定研修施設で5年以上の研修
2. 5年以上継続して学会会員であること
3. 多数の症例経験と論文執筆
4. 学会発表の実績
5. 症例審査への合格
6. 5年ごとの資格更新(研修単位取得と更新症例報告が必要)

認定医は全歯科医師の3.3%という希少性
2025年3月現在、日本矯正歯科学会の認定医は全国で約3,300名。日本全国の歯科医師数が約10万人とされる中で、認定医は全体の約3.3%**という、非常に希少な資格なのです。

さらに上を目指す「臨床指導医」という最高峰

青山先生が取得された「臨床指導医(旧専門医)」は、認定医のさらに上位の資格です。

臨床指導医の条件:
・認定医取得後、さらに12年以上の臨床経験が必要
・全国で約400名程度(全歯科医師の約0.4%)
・矯正歯科医の中でも最高峰の位置づけ
・後進の指導にあたる責任ある立場

青山先生は認定医取得から16年後に臨床指導医を取得されています。
これは、ただ資格を取得するだけでなく、常に自己研鑽を続け、より高い臨床技術と指導力を身につけてこられた証です。

研修期間で最も大変だったこと

若杉先生の証言:
認定医を取るまでの過程で最も大変だったのは、時間の調整でした。矯正治療は1ヶ月から数ヶ月おきの予約制なので、自分の生活と両立できるか不安でした。
特に研修期間中は、大学での研究と臨床の両立が求められるため、時間管理が本当に難しかったです。
矯正医を目指す道のりは、経済的にも時間的にも厳しい期間が続きます。
同期が開業医として働き始める中、大学院生として研鑽を積む期間は、相当な覚悟が必要です。

矯正医になる前と後の感じ方【対比ポイント②】

若杉先生「ミクロからミリの世界へ」

Q. 矯正医になる前に抱いていたイメージと、実際になってからのギャップはありましたか?

なる前:ミクロの世界
一般歯科をやっているときは、本当に「ミクロの世界」だと感じていました。
虫歯の削り方、コンポジットレジンの充填、マイクロスコープを使った根管治療...すべてが繊細で、ミリ以下の単位で治療を進めていく世界です。

なった後:ミリの世界
ところが、矯正医になってみると、意外にも「ミリの世界」だったんです!
もちろん細かい調整は必要ですが、思っていたよりも大胆な世界でした。力学的な要素が強く、物理が好きな人には楽しいかもしれませんね。

矯正歯科の独特な魅力
若杉先生が感じたのは、治療アプローチの根本的な違いでした。
歯を動かすメカニズムは、力の方向、強さ、時間など、物理学の原理に基づいています。
「この方向にこれだけの力をかければ、この歯はこう動く」という計算が必要で、非常に論理的でダイナミックな治療なのです。
一般歯科が「対症療法」的な要素が強いのに対し、矯正歯科は「予測と計画」が中心となります。2年後、3年後の最終的なゴールを描き、そこに向かって段階的に治療を進めていく。まるで、複雑なパズルを解いていくような知的興奮があるのです。おっしゃるように、物理が好きな人にも向いているかもしれませんね。

青山先生「優越感から謙虚さへ」

Q. 矯正医になる前と後でギャップはありましたか?

なる前:「矯正が一番」という優越感
矯正学を学び始めたころは、正直なところ「矯正が一番」というような気持ちがありました。
歯科の中でも特別な分野、最も高度な分野という意識があったんです。

なった後:「あくまでも歯科の一分野」という謙虚さ
しかし、実際に矯正医として長年臨床に携わってみると、矯正はあくまでも歯科の一分野であって、奥が深く難しいと感じるようになりました。矯正だけで完結することはなく、一般歯科、補綴、口腔外科など、他の分野との連携が不可欠です。また、学べば学ぶほど、知らないことがまだまだあることに気づかされます。

30年のキャリアが教えてくれること
青山先生が感じたのは、経験による視野の広がりと深まりでした。
若い頃の「自分の専門が最も優れている」という気持ちは、ある意味自然なことです。
しかし、真の専門家は、経験を積むほどに謙虚になり、他の分野の重要性を理解し、チーム医療の価値を認識するようになります。
「奥が深く難しい」という言葉は、決してネガティブな意味ではありません。むしろ、生涯をかけて学び続ける価値がある分野だという、深い敬意の表れなのです。

この対比が示すこと

若杉先生は「技術的側面」でのギャップを、青山先生は「精神的成長」でのギャップを語っています。
これは、キャリアの段階によって得られる気づきが異なることを示しています。

→若手の先生:日々の臨床での発見や技術的な驚きを感じる時期
→ベテランの先生:長年の経験から得られた深い洞察を持つ時期


両方の視点を知ることで、矯正医としての成長の道筋が見えてきます。

最も印象に残っている患者さん【対比ポイント③】

若杉先生「世代を超えた信頼関係」

Q. 最も印象に残っている患者さんとのエピソードは?

これは本当に嬉しい思い出なのですが、以前矯正治療をした患者さんが、時を経てご自身のお子さんも診てほしいと連れてきてくれたことがありました。長く通院していただくと信頼関係ができるのだと、改めて感謝の念が沸きました。逆に考えれば、信頼をしてくださっているから、矯正終了までの長い期間、通い続けてくださったのかもしれません。

世代を超えた信頼関係の意味
矯正治療は短くても2年、長いと3〜4年かかります。その間、患者さんは月に1回通い
続けるわけです。それだけの長い期間、信頼して通っていただけること、そしてその後
もまたご家族を紹介していただけることは、矯正医として最高の喜びです。
この「世代を超えた信頼関係」こそが、矯正医という仕事の最大の魅力かもしれません。親御さんが矯正治療に満足してくださったからこそ、お子さんの治療も任せていただける。これほど嬉しいことはありません。

青山先生「子供の世界の残酷さと矯正治療の意義」

Q. 最も印象に残っている患者さんとのエピソードを教えてください

これは忘れられません。矯正科に入局して、初めて配当された患者さんのことです。
小学校2年生の男の子で、反対咬合(受け口)でした。その子の主訴が今でも鮮明に覚えています。
「歯並びでついたあだ名が嫌で何とかしたい」
そのとき、「子供の世界は残酷だ」と心から感じました。

矯正治療の真の意義
この患者さんのエピソードは、矯正治療の本質的な意義を教えてくれます。
矯正治療は、単に「見た目を美しくする」審美的治療ではありません。

矯正治療が果たす役割:
・いじめやからかいから子供を守る
・コンプレックスを取り除き、自己肯定感を高める
・社会生活における心理的バリアを取り除く
・人生の質(QOL)を根本から改善する

小学校2年生という幼い年齢で、歯並びのせいでつけられたあだ名に苦しむ。
その痛みは、大人が想像する以上に深刻です。
青山先生が「子供の世界は残酷だ」と感じられたのは、この子の切実な訴えを前にして、矯正治療が持つ社会的・心理的意義の大きさを、身をもって理解されたからでしょう。

初めての患者さんが教えてくれたこと
興味深いのは、この患者さんが青山先生にとって「初めて配当された患者さん」だったという点です。
矯正医としてのキャリアの出発点で、このような切実な訴えを持つ患者さんと出会ったこと。それが、その後30年以上にわたる青山先生の臨床姿勢の基盤になったのかもしれません。
技術や知識だけでなく、「患者さんの痛みに寄り添う心」こそが、優れた矯正医の条件なのです。

この対比が教えること

若杉先生は「信頼関係の継続」を、青山先生は「患者さんの痛みへの共感」を最も大切な思い出として語っています。

この対比が示すのは、矯正医にとって大切なこと:
1. 長期的な信頼関係を築く力(若杉先生の視点)
2. 患者さんの心の痛みに寄り添う感受性(青山先生の視点)

技術や知識だけでなく、人間としての温かさと共感力が、優れた矯正医の条件なのです。

矯正医の実際の働き方

勤務時間の特殊性を理解する

矯正治療を受ける患者さんは、学生や会社員が多いため、平日夕方から夜、または土日に通院されます。
そのため、矯正医の勤務時間は一般的な歯科医師とは異なります。

典型的な勤務時間:
・平日:14時〜19時頃
・土曜日:終日または午後
・日曜日:午前または終日

メリット
・平日昼間に自分の時間を確保できる
・子どもの学校行事や病院の付き添いなど、平日に必要な用事を済ませられる
・銀行や役所など、平日昼間しか開いていない場所にも行ける

デメリット
・一般的な土日休みが取りにくい
・家族や友人との予定調整が難しい
・パートナーの理解と協力が必須

女性矯正医のリアルな声(若杉先生)

Q. 女性として、結婚・出産を経験されての率直な思いを聞かせてください

私は女性で、結婚も出産も経験しました。
これから矯正医を目指す女性の皆さんに、ぜひ知っておいてほしいことがあります。
矯正に通う患者さんは、平日夕方から夜、または土日に通われる方が多いです。なぜなら、学生さんや会社員の方が多いからです。その時間に勤務するにあたり、結婚・出産を考えるならパートナーからの理解と協力は必須です。子どものお迎えや夕食の準備など、家庭との両立には工夫が必要になります。
また、1症例あたり治るまで期間がかかるので、頻繁に勤務先を変えることはおすすめしません。腰を据えられる環境と患者さんとのコミュニケーションが大事です。

女性矯正医のワークライフバランス
女性矯正医にとって重要なのは:
1. パートナーや家族との協力体制をしっかり築くこと
2. 長期的に腰を据えられる勤務先を選ぶこと
3. 産休・育休から復帰した後も、同じ患者さんを継続して診られる環境を見つけること

重要なのは、パートナーや家族との協力体制をしっかり築くことです。
矯正歯科は一般歯科と比べて勤務時間が特殊ですが、逆に考えれば平日昼間に自分の時間を確保できるというメリットもあります。

年間症例数と学びの姿勢

Q. 一人前になれたと感じた時はどんな時ですか?年間症例数はどのくらいですか?

若杉先生:
実は、いまだに矯正医の佐々木先生から学ぶことばかりで、一人前の自覚はありません(笑)。
症例ごとにいまだに勉強中です。年間の症例数は約60症例くらいですね。これは決して多くはないかもしれませんが、一つ一つの症例に丁寧に向き合っています。

「学び続ける」矯正医
若杉先生のこの言葉は、矯正医という職業の本質を表しています。
どれだけ経験を積んでも、「これで完璧」ということはありません。患者さん一人ひとりの骨格、歯の状態、生活習慣はすべて異なります。
認定医の5年ごとの資格更新には、研修単位取得の実績と更新症例報告等の更新審査に合格する必要があるように、矯正医は生涯学習が求められる職業なのです。

年間症例数の意味
年間60症例という数字は、矯正専門医として適切な症例数です。
一人の患者さんの治療期間が平均2〜3年であることを考えると、常時120〜180人の患者さんを同時進行でフォローしていることになります。それぞれの患者さんの治療計画を頭に入れ、進捗を管理し、適切なタイミングで次のステップに進む。これは相当な集中力と記憶力が必要な仕事です。

ベテランから次世代へのメッセージ

青山先生が最も伝えたいこと「保定の重要性」

Q. 歯学部生や若手歯科医師で、矯正医を目指すか迷っている人へメッセージをお願いします

一つ、これから矯正医を目指す皆さんに必ず伝えておきたいことがあります。
動的矯正治療後、保定での安定性を考えて治療を進めるようにしてください。
これは本当に重要なことです。

「保定」とは何か

矯正治療は、装置を外したら終わりではありません。
むしろ、そこからが本当の意味での「治療の完成」に向けた重要なフェーズです。

動的治療期間(2〜3年):
装置を使って歯を動かす期間
保定期間(2年〜生涯):
動かした歯を安定した位置に保つ期間

どれだけ美しく歯を並べても、保定を適切に行わなければ、歯は元の位置に戻ろうとします(後戻り)。

なぜ保定が重要なのか

青山先生が30年以上の臨床経験を経て、次世代に最も伝えたいメッセージが「保定の重要性」だというのは、非常に興味深いことです。
おそらく青山先生は、長い臨床経験の中で、保定を軽視したために後戻りしてしまった患者さんを何人も見てこられたのでしょう。せっかく2〜3年かけて美しく並んだ歯が、保定をおろそかにしたことで、数年後には元に戻ってしまう。その悔しさと、患者さんの落胆を、先生自身も何度も経験されてきたはずです。
だからこそ、若い矯正医には「最初から保定を見据えた治療計画を立ててほしい」というメッセージを送られているのです。
これは、教科書には書かれていない、現場で何十年も患者さんと向き合ってきた臨床医だからこそ語れる、重みのある助言です。

若杉先生からのメッセージ

人生100年時代を迎えた今、「歯」の健康寿命を延ばすことは、QOL(生活の質)向上に直結します。
矯正医は、その健康寿命を延ばすためのお手伝いができる、やりがいのある仕事です。
正しい咬合を作ることで、将来的な歯の喪失リスクを減らせます。顎関節症の予防にもつながります。そして何より、患者さんの笑顔と自信を取り戻すことができます。

矯正医に向いているのはどんな人?

二人の先生のインタビューから見えてきた6つの資質

1. 長期的視点を持てる人
矯正治療は短くても2年、長いと4年以上かかります。目の前の結果だけでなく、数年先を見据えて計画を立て、実行できる忍耐強さが求められます。
青山先生の「保定まで見据えた治療」というメッセージは、まさにこの点を強調しています。

2. コミュニケーションが好きな人
技術だけでは矯正治療は成功しません。患者さんやご家族との信頼関係を築き、長期間にわたってモチベーションを維持してもらう力が必要です。
若杉先生が「患者さんとのコミュニケーションが大事」と強調されていたのは、まさにこの点です。

3. 物理や力学が好きな人
「物理が好きな人には楽しいかも」という若杉先生の言葉通り、矯正治療は力学的なアプローチが中心です。論理的思考が得意な人に向いています。

4. 謙虚に学び続けられる人
矯正学は日々進化しています。新しい装置、新しい理論、デジタル技術の導入...常にアップデートし続ける姿勢が大切です。
若杉先生が「いまだに勉強中」とおっしゃっていたように、謙虚に学び続ける姿勢が重要です。

5. 患者さんの心の痛みに寄り添える人
青山先生が初めての患者さんのエピソードで語った「子供の世界は残酷だ」という感受性。
審美治療ではなく、人生を変える治療だと理解できる人。

6. 他分野との連携を大切にできる人
「矯正はあくまでも歯科の一分野」と理解し、他の専門家と協力できる人。
チーム医療の価値を理解できる人が、真の矯正専門医になれます。

矯正医のキャリアパスと経済面

研修期間中の経済状況

大学院生や研修医として矯正を学んでいる期間は、正直なところ経済的に厳しい時期です。

研修期間中の現実:
・大学院生:月収10〜20万円程度
・同期が開業医で働いている場合:月収40〜50万円

 収入格差が大きく、経済的なプレッシャーを感じることも
この期間は、アルバイトをしながら研修を続ける先生も少なくありません。経済的な不安を感じることもあるでしょうし、同期が開業して成功していく姿を見て、焦ることもあるかもしれません。

認定医取得後の収入

しかし、認定医を取得し、矯正専門医として働き始めると、状況は大きく変わります。

矯正専門医の年収:
・ 勤務医:500万円〜800万円
・開業医(矯正専門):1,000万円以上も可能

矯正治療は自費診療が中心のため、経験と実績を積めば高収入も期待できます。
青山先生のように矯正専門医院を27年間運営できれば、安定した収入と充実したキャリアが築けます。

 

キャリアパスの選択肢

矯正医として働く場合、いくつかのキャリアパスがあります。

パターン1:大学に残る
メリット:
・研究と臨床の両立ができる
・ 最新の知識と技術に触れられる
・後進の育成に関わる
・ 臨床指導医を目指せる
デメリット:
・収入は比較的低め
・ 研究業績が求められる
・事務作業や教育業務も多い

パターン2:一般歯科医院で矯正を担当(若杉先生型)
メリット:
・ 一般歯科との連携がスムーズ
・ 開業リスクなく安定した収入
・多様な症例を経験できる
・ ワークライフバランスを取りやすい
デメリット:
・ 矯正だけに集中できないこともある
・ 設備や環境が限定的な場合も
・一般歯科の技術が衰える可能性

パターン3:矯正専門医院を開業(青山先生型)
メリット:

・ 矯正治療に特化できる
・ 自分の理想の診療スタイルを実現
・高収入が期待できる
・専門性を極められる
デメリット:
 開業資金が必要(2,000〜4,000万円程度)
・経営リスクを負う
・他科との連携に工夫が必要
・ 集患のための努力が必要

パターン4:矯正専門医院に勤務
メリット:

・矯正治療に特化できる
・ 開業リスクなし
・専門的な環境で学べる
・比較的高収入
デメリット:
・ポジションが限られる
・院長の方針に従う必要がある
・将来的なキャリアパスを考える必要

 

まとめ:二人の先生から学ぶこと

共通点:矯正医として大切なこと

二人の先生に共通していたのは:

1. 謙虚な学びの姿勢
 若杉先生:「いまだに勉強中」
青山先生:「奥が深く難しい」

2. 患者さんとの深い関係性
 若杉先生:世代を超えた信頼関係
青山先生:初めての患者さんの訴えを今でも覚えている

3. 長期的視点の重要性
若杉先生:2〜3年かけた治療
 青山先生:保定まで見据えた治療計画

 

相違点:それぞれの矯正医像

矯正医というキャリアに「正解は一つではない」

この対比が教えてくれるのは、矯正医というキャリアには「正解は一つではない」ということです。
・一般歯科医院で矯正を担当するスタイル(若杉先生)
・矯正専門医院を開業するスタイル(青山先生)

どちらの道を選んでも、充実したキャリアを築くことができます。
・明確な動機で始めても(若杉先生)
・なんとなくの興味で始めても(青山先生)

大切なのは、その後の真摯な取り組みと、生涯学習を続ける姿勢です。

矯正医を目指すあなたへ【最終メッセージ】

まずは一歩を踏み出してみよう

もし少しでも矯正に興味があるなら、まずは矯正科の見学に行ってみてください。
実際の治療現場を見て、患者さんと先生の関係性を感じてみてください。先生がどのように患者さんと向き合い、どのように治療計画を説明し、どのように信頼関係を築いているか。
そこで「自分もこうなりたい」と思えたなら、きっとあなたは矯正医に向いています。

覚悟すべきこと

矯正医への道は決して楽ではありません。

経済面:
・5〜6年間の研修期間中の低収入
・同期との収入格差
・認定医取得までの長い道のり
時間面:
・夜間・土日中心の勤務時間
・家庭との両立の工夫が必要
・ 数ヶ月先まで予約が埋まる生活
精神面:
・生涯学習が求められる
・5年ごとの認定医更新
・常に新しい知識・技術のアップデートが必要

それでも得られるもの

しかし、それらを補って余りある充実感があります。

患者さんとの関係:
 ・患者さんの人生を変える瞬間に立ち会える
・長い時間をかけて信頼関係を築ける
・ 世代を超えた感謝を得られる
・「先生に出会えて良かった」と言ってもらえる
専門家としての喜び:
・ 論理的で知的な治療アプローチ
・ 予測と計画を立てる知的興奮
・ 物理学を応用したダイナミックな治療
・ 患者さんの成長を見守る充実感
社会貢献:
・ 予防医療として未来の健康に貢献
・ 子供たちをいじめから守る
・ 人生の質(QOL)を向上させる
・ 健康寿命の延伸に寄与

 

こんな人にこそ矯正医になってほしい

「なんとなく面白そう」と感じたあなたへ:
青山先生のように、明確な動機がなくても大丈夫です。
自然な興味こそが、長く続けられる原動力になります。

明確な憧れの存在がいるあなたへ:
若杉先生のように、尊敬できるメンターとの出会いは最高のスタートです。
その先生のようになりたいという気持ちを大切にしてください。

物理や論理的思考が好きなあなたへ:
矯正治療は、力学的アプローチが中心です。
パズルを解くような知的興奮を求めるなら、矯正医は天職になるでしょう。

人とのコミュニケーションが好きなあなたへ:
長期的な信頼関係を築き、患者さんの人生に深く関わる仕事です。
人の成長を見守ることに喜びを感じられるなら最適です。

学び続けることが好きなあなたへ:
矯正学は日々進化しています。
生涯学習を楽しめる人にとって、飽きることのない分野です。

女性の矯正医を目指すあなたへ

若杉先生のリアルな声を参考に、ワークライフバランスについてしっかり考えてください。
・パートナーや家族との協力体制が大切
・腰を据えられる勤務先選びが重要
・産休・育休後も患者さんを継続して診られる環境を探す
・平日昼間に時間を確保できるメリットもある

女性だからこそ活躍できる分野でもあります。
患者さん(特に女性や子供)との共感力、細やかな気配り、長期的な関係性の構築は、女性矯正医の強みです。

最後に

若杉先生も青山先生も、矯正医になることを後悔していません。
むしろ、「この道を選んでよかった」と確信しています。
あなたの第一歩を、私たちは応援しています。
まずは一歩、矯正科の見学に行く。矯正医の先生に話を聞く。自分の中の「なんとなく面白そう」という感覚を大切にする。その一歩が、あなたの人生を変える決断になるかもしれません。

JDCnaviは歯科医師のキャリアを応援します
執筆:JDCnavi編集部
監修:若杉先生(日本矯正歯科学会認定医)/ 青山先生(日本矯正歯科学会臨床指導医)

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